16 ・ 文書と発表
記事・長文
本人の考えと経験を、読者に向けた構成と本文にし、本人が自分の考えとして言える文章に仕上げるガイドです。書き始める前に話すところから、全文を通して読んで整えるまでを扱います。
記事・長文の工程と判断
概要
記事や長文は、読者が自分の速さで読み、前後を行き来できる文章です。このガイドで決めるのは、文章の中心となる主張、それを支える理由と具体例、読者が順に理解できる構成、本人の言葉で書かれた本文です。
このガイドでは、考えや経験を持ち、記事に名前を出す人を本人と呼びます。本人が自分で書く場合も、編集する人が本人に話を聞いて書く場合もあります。本文にどの経験を書き、どう表現するかの最終判断は本人が行います。
AIは、話した内容の整理、構成の案、本文の下書きを担えます。ただし、AIの下書きには、文章を自然につなぐために、本人が話していない経験や感情が加わることがあります。このガイドでは、本文に書く経験と感情を本人の発言に結びつくものに限ります。結びつかないものは、本人への質問として確かめる進め方を基本にします。
着手時の材料
- 本人の考えと、実際に経験したこと
- 本人が書いた、または手直しした原稿(ある場合)
- 読者と、読者がすでに知っていること
- 掲載先と、文字数や表記の決まり
向いている場面
- コラム、寄稿、社内報の記事など、本人の名前で出す文章を書くとき
- 書き慣れていない人の話から、文章をまとめるとき
- 本人が手直しした原稿を、全体のつながりを保って仕上げるとき
このガイドで扱わないこと
- 資料を集めて比較し、結論を出す文書。調査レポートのガイドで扱います。
- 画面の中で操作を案内する文言。UXライティングのガイドで扱います。
- 特定の相手に送る短い連絡。メッセージ下書きのガイドで扱います。
隣接するガイドとの違い
| ガイド | 決めること | 主な成果 | 開く段階 |
|---|---|---|---|
| 15 スライド・発表原稿 | 聴衆に話す順序と、画面に出す情報と口頭で補う情報の分担 | スライドと発表原稿 | 話す場と持ち時間が決まっているとき |
| 16 記事・長文 | 本人の考えと経験を伝える構成と言葉 | 本人が自分の考えとして出せる本文 | 読み物として公開や共有をするとき |
| 17 調査レポート | 判断に必要な事実、比べる条件、結論が成り立つ条件 | 根拠と反例を含む調査レポート | 判断の前に事実をそろえるとき。発表、記事、提案の根拠を用意するときも開く |
| 18 企画・組織戦略・提案書 | 進める案、試す範囲、評価方法 | 決定者が判断できる提案書 | 決定を求めるとき。発表の場で提案する場合は、スライド・発表原稿のガイドも参照する |
全体の流れと分担
工程は01から06へ進みます。工程03で構成を、工程06で自分の考えとして言えるかを、本人が判断します。執筆は同じ流れの中で進め、事実の確認と、読者の立場で読む確認を別の確認担当に分担できます。工程06で段落のつながりに問題があれば工程03へ、本人が言えない箇所があれば工程05へ戻ります。
工程ごとの分担
| 担い手 | 01話して記録 | 02考えの整理 | 03構成 | 04本文の下書き | 05本人の言葉に | 06全文を確認 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 本人 | 判断:伝えたいことと経験を話す | なし | 判断:構成を選ぶ | なし | 判断:下書きを直し、質問に答える | 判断:全文を声に出して読み、自分の考えとして言えるか確かめる |
| 人 | 聞き手として、具体的な場面を聞く | 判断:中心にする主張の候補と、使う具体例を選ぶ | 文字数と読者の前提に合うか確かめる | 判断:下書きが記録の範囲に収まっているか確かめる | 修正の意図と理由を記録する | なし |
| AI | 環境と本人の同意があれば、記録して文字に起こす | 主張・理由・具体例・要確認の事実に分類する | 構成案を作り、段落の役割を書く | 本文を下書きする | 揃える案を、本人の修正と分けて示す | つながり、表記、文字数を確かめる |
| 確認担当 | なし | なし | なし | 要確認の事実を資料と照合する(並行) | なし | 読者の立場で初めて読み、分かりにくい箇所を伝える(並行) |
迷ったときの参照先
手元の状況に近いものから、該当する節を開いてください。
016工程のうち1
伝えたいことを話す
書き始める前に、本人が伝えたいことと、その元になった経験を話してもらい、記録します。
考え方
文章を書き慣れていない人や、考えがまだまとまっていない人は、書く前に話すほうが材料を出しやすくなります。聞き手は、意見に加えて、その意見を持つようになった場面を聞きます。「いつ」「誰と」「何が起きたか」を聞くと、工程02で具体例として使える材料が集まります。
話した内容は、本人の言い回しのまま記録します。この記録が、本文に書いてよい経験と感情の範囲を決める元の資料になります。録音や文字起こしを使う場合は、本人の同意を得てから行います。
推奨と理由
意見を聞いたら、その意見を持つようになった場面を聞く
理由具体的な場面は、読者が意見を自分の経験に引き寄せて理解する手がかりになります。
話した内容は、言い回しを変えずに記録する
理由工程04と工程05で、本文の表現が本人の言葉から離れていないかを確かめる基準になります。
次へ進む目安
- 本人の伝えたいことが記録されている
- 意見ごとに、元になった場面を一つ以上聞けている
具体例
古書店主のコラム
説明のための架空の例です。ある商店街の古書店の店主が、地域の情報サイトに約2,500字のコラムを寄稿します。テーマは、本の値付けで大切にしていることです。店主は文章を書き慣れていないため、編集を手伝う人が話を聞き、AIを使って原稿をまとめます。以降の工程でも同じ例を使います。
- 聞いたこと
- 編集を手伝う人が、店主に1時間ほど話を聞いた。店主は「値段は、次の読み手に届けるための目印だ」と話した。
- 元になった場面
- 学生が手持ちの金額で買える棚を作ったところ、その学生が何年も後に店を訪れて礼を言った出来事
- 記録
- 本人の同意を得て録音し、AIが文字に起こした。
026工程のうち2
考えと具体例を整理する
記録から、主張、理由、具体例、確認が必要な事実を分けて整理します。
考え方
話した内容には、主張、理由、具体例、事実が混ざっています。分類して並べると、どの主張に具体例が付いていて、どの主張には付いていないかが分かります。具体例のない主張は、本文で抽象的な説明になりやすいため、本人に追加で聞くか、本文から外すかを決めます。
年や数、店名などの事実は、本人の記憶違いもあり得るため、確認が必要なものとして印を付けます。確認は記録や資料と照らして行い、確かめられない場合は、本文での書き方を本人と決めます。
AIの分類には、各項目が記録のどの発言から来たかを付けます。発言に結びつかない項目は、整理の過程で加わったものとして扱い、本人に確かめるまで本文に使いません。
推奨と理由
分類した項目に、元の発言の位置を付ける
理由本文の各段落が、本人のどの発言に基づくかを後から確かめられます。
具体例のない主張は、追加で聞くか外すかを決める
理由具体例のない主張だけの段落は、読者が自分の経験と結びつけにくくなります。
次へ進む目安
- 主張、理由、具体例、確認が必要な事実が分かれている
- 各項目に元の発言の位置が付いている
- 具体例のない主張の扱いが決まっている
具体例
古書店主のコラム
- AIの分類
- 主張が3つ、具体例が4つになった。「値段は次の読み手に届けるための目印」という主張には、学生の出来事が対応していた。
- 具体例のない主張
- 「古書の相場は下がり続けている」という主張には具体例がなかった。店主に聞くと確かな数字を持っていなかったため、本文から外した。
- 確認が必要な事実
- 学生が礼を言いに来た年に印を付け、店主の手帳で確かめることにした。
036工程のうち3
構成を考える
読者が順に理解できる段落の並びを比べ、一つの構成を選びます。
考え方
構成の案は、段落ごとの役割を一行で書いた表で比べます。本文を書く前に表で比べると、主張と具体例の対応や、読者が知らない前提を説明する位置を確かめやすくなります。
読者は、記事を最後まで読むとは限りません。冒頭の数段落で、何について書かれた文章で、読むと何が分かるかを示します。
推奨と理由
構成は、段落の役割を一行で書いて比べる
理由本文を書いた後に構成を変えると、段落のつながりを書き直す量が増えます。
判断の材料
- 段落ごとの役割を一行で書いた構成案
- 工程02で選んだ主張と具体例
- 読者が知っていることと、掲載先の文字数
次へ進む目安
構成を選びます。次の条件を満たす構成を選びます。
- 中心の主張が一つで、冒頭の数段落で示されている
- 主張ごとに具体例が対応している
- 読者が知らない前提を説明する位置がある
- 文字数の見込みが掲載先の上限に収まる
主張に対応する具体例が足りない場合は、工程01に戻って本人に聞きます。
具体例
古書店主のコラム
- AIの構成案
- 3つの構成案を、段落ごとの役割を一行で書いた表で示した。
- 本人の選択
- 学生の出来事
- 値付けの考え方
- 学生向けの棚の作り方
- 何年も後の再会
- 次の読み手へという結び
- 加えた段落
- 読者は古書店の値付けの手順を知らないため、2段落目に、仕入れた本に値段を付ける手順を短く説明する段落を加えた。
046工程のうち4
本文を書く
選んだ構成に沿って、本人の発言をもとに本文の下書きを作ります。
考え方
下書きには、本人の発言にない経験や感情を書きません。文章をつなぐために感情を補いたくなる箇所は、本文に書かず、本人への質問として残します。本人が話していない感情を書くと、本人が読んで違和感を持つうえに、読者に事実と異なる印象を伝えます。
事実の確認は、執筆と並行して分担できます。確認を担う人には、確認が必要な項目と、照らし合わせる資料を渡します。確認できなかった事実は本文で断定せず、書き方を本人と決めます。
本文では、事実と意見を区別して書きます。意見を事実のように書くと、読者は根拠を確かめられないまま受け取ることになります。
推奨と理由
感情や経験を補いたい箇所は、本人への質問として残す
理由本人の発言に結びつかない表現が入ると、本人が自分の考えとして言えない文章になります。
事実の確認は、確認する項目と照らす資料を渡して分担する
理由確認の範囲がはっきりし、執筆を止めずに進められます。
次へ進む目安
- 本文の経験と感情が、すべて記録の発言に結びついている
- 補いたい箇所が、本人への質問として残っている
- 確認が必要な事実の照合結果が記録されている
具体例
古書店主のコラム
- 下書き
- AIが2,600字の下書きを作った。
- 本人への質問
- 再会の場面に感情を表す言葉を足したくなる箇所があったが、店主の発言にはなかったため、「そのときどう感じたか」を本人への質問として残した。
- 事実の照合
- 学生が礼を言いに来た年を店主の手帳で確かめると、店主の記憶より1年後だった。本文は手帳の記録に合わせた。
056工程のうち5
自分の言葉に直す
本人が下書きを読み、自分の言葉に直します。本人の修正を優先し、修正の意図を文章全体に反映します。
考え方
本人の修正は、そのまま本文に反映します。AIは修正の意図を読み取り、文章の他の箇所に同じ種類の表現があれば、揃える案として示します。本人の修正をAIが別の表現に言い換えて戻すと、本人の言葉が失われます。
一箇所の修正を、文章全体の主題を変える指示として扱いません。たとえば、ある段落の言い回しが強すぎるとして直された場合、見直す範囲は、同じ強さの表現にとどめます。主題や構成を変えたい意図があるかどうかは、本人に確かめます。
残しておいた質問には、本人に答えてもらいます。答えがない場合は、その箇所を書かないという判断もできます。
推奨と理由
揃える案は、本人の修正と分けて示す
理由本人が直した箇所とAIが揃えた箇所を区別すれば、本人が採否を判断できます。
修正の理由を記録する
理由後で読み直したり修正を重ねたりするときに、同じ箇所を元に戻してしまうことを防げます。
次へ進む目安
- 本人の修正がすべて反映されている
- 揃える案が、本人の修正と区別して示されている
- 質問への本人の答えが反映されている
具体例
古書店主のコラム
- 本人の修正
- 店主は「次の読み手に届ける」という表現を残すことにし、別の段落の「本を循環させる」を、自分では使わない言葉だとして直した。
- 揃える案
- AIは、同じ種類の言葉が他に2箇所あることを、本人の修正とは分けて示した。店主はそのうち1箇所だけを直した。
- 質問への答え
- 再会の場面の質問には、店主が「何も言えなくて、お茶を出した」と答え、その言葉を本文に入れた。
066工程のうち6
全文を読んで整える
本人と、読者の立場の人が全文を通して読み、本人が自分の考えとして言える文章になっているかを確かめます。
考え方
部分ごとの修正を重ねると、段落の間のつながりや、冒頭と結びの主張がずれることがあります。最後に全文を通して読み、冒頭で示した主張と結びが一致しているか、段落の順に理解が進むかを確かめます。
初めて読む人には、どこで読むのをやめたくなったか、何が分からなかったかを聞きます。分かりにくい原因が構成にあれば工程03へ、表現にあれば工程05へ戻ります。
通読や読者の確認のあとに本文を直した場合は、直した箇所を含めて、本人がもう一度全文を確かめてから確定します。一部の書き換えで、前後の段落のつながりや、本人の言い回しが変わることがあるためです。
記録として、残したい表現、事実と意見の区別、変更の理由、確認できなかった情報を残します。掲載先の編集担当から修正を求められたときも、この記録があれば根拠を示して答えられます。掲載や公開は、案件の取り決めに従います。
推奨と理由
本人には、声に出して読んでもらう
理由黙読では気づきにくい、自分では使わない言葉や言いにくい文に気づけます。
確認のあとに直したら、本人がもう一度全文を読む
理由読者の指摘に合わせた書き換えは、本人の言い回しから離れやすく、直す前の確認結果は変更後の文章には当てはまりません。
判断の材料
- 全文
- 工程01の記録と工程02の分類
- 初めて読んだ人の感想
- 事実の照合結果
次へ進む目安
自分の考えとして言えるかを確かめます。次の条件を満たしていれば、本文を確定できます。
- 本人が、全文を自分の考えとして人前で話せると判断している
- 本人が話していない経験や感情が含まれていない
- 冒頭の主張と結びが一致している
- 事実の確認が済み、確認できなかった事実を断定していない
- 確認のあとに本文を変えた場合は、変更後に本人がもう一度全文を確かめている
本人が言えない箇所は工程05へ、段落のつながりの問題は工程03へ戻ります。
具体例
古書店主のコラム
- 本人の通読
- 店主が声に出して通して読み、「これなら店で常連さんに話せる」と判断した。
- 読者の確認
- 初めて読んだ人は、値付けの手順を説明する段落で読むのをやめたくなったと話した。
- 直したこと
- 手順の説明を3つの要点に絞り、文字数は2,480字になった。
- 再確認
- 直した段落を含めて、店主がもう一度全文を声に出して読み、前後のつながりと言い回しが自分の考えとして言えることを確かめた。
- 掲載先へ渡した記録
- 残したい表現として「次の読み手に届けるための目印」を記録し、確定した本文とともに掲載先に渡した。
成果を渡す先
確定した本文は、掲載先や他の制作物へ渡します。本文とあわせて、残したい表現と事実・意見の区別を渡すと、受け取った側の編集で本人の言葉が失われにくくなります。
| 渡す先 | 渡すもの | 渡す時点 |
|---|---|---|
| 掲載先 | 確定した本文、残したい表現、事実と意見の区別、変更の理由、確認できなかった情報の記録 | 工程06の確認のあと。掲載や公開は案件の取り決めに従う |
| 15 スライド・発表原稿 | 中心の主張と具体例、確定した本文 | 記事の内容を人前で発表するとき。聴衆と伝えたい結論を確認する工程の材料にする |
| 07 ネーミング・コピー | 中心の主張と、掲載先の表示条件 | 記事のタイトルや見出しを、掲載先で目を引く言葉にしたいとき |
| 21 メッセージ下書き | 前後のやり取りと、伝えたい事実 | 寄稿の依頼への返信や、掲載先との連絡を書くとき |